イノベーションを考える

シリコンバレー発の活気溢れるイノベーションを見ているだけでいいのでしょうか?

『イノベーションとは?』とか、『イノベーションを起こすには?』と真面目に尋ねられると、自信を持って即座に答えられるエンジニアやビジネスマンは、そう多くは無いと思われます。それは、『イノベーション』というカタカナコトバだけが紹介され、それが独り歩きして来たためであると私は考えています。

かつての日本の成長は、日本企業が欧米のフォロワーとして努力した結果でした。しかし、技術革新を武器に世界の頂点に登り詰め、世界のリーダーとなって間もなく、バブルに遭遇し、日本人は自信を失いました。その後は、失敗を恐れる余り、多産多死を乗り越えチャレンジし続けるシリコンバレー型ベンチャー企業のイノベーションを、指をくわえて眺めてきたというのが、 『失われた20年』の経緯であったと言えます。

一方、2012年に誕生した第二次安倍政権は、活力ある日本の再生を目指した成長戦略が推進されています。その一環として、日本企業が再び競争力を取り戻すことが期待されています。そして、その成長戦略には、技術革新による『イノベーション』が掲げられています。しかし、政府関係者や企業経営者が信じてきた旧来からの思考法、すなわち、『イノベーションを起こすにはノーベル賞級の技術革新が不可欠である』との認識は、単なる日本特有の誤った思い込みにしか過ぎません。

欧米の成功事例を参考に考えてみますと、多様なイノベーションが存在します。私はそれを、『イノベーション・ピラミッド』と名付けています。イノベーション・ピラミッドの多層構造は、完成までの期間の長さや必要とする資金の大きさ等により、多きく分けてて次の3つに分類されます。(下図参照)
【A】国家プロジェクトに代表される、『ナショナル・イノベーション』
【B】企業が組織的に取り組む、『コーポレート・イノベーション』
【C】社員が創造的アイディアを下に、自主的に取組む『スモール・イノベーション』

          イノベーション・ピラミッド

長年にわたり、企業の成長の原動力としてのイノベーションを研究してきた私が着目してきたイノベーションは、主に、上記の【B】と【C】に相当します。そして、これら、『B』、または『C』の場合、技術革新以外に、必ず必要となる重要な事柄があります。

最近、ビッグデータに注目が集められています。このビッグデータやそれを分析した情報は、その過程で昇華し、重要な『知識』となります。『知識』は、イノベーションを起こす源泉です。しかし、『知識』だけでは、答えがある問題にしか対処できません。

私たちが将来の成長に向けてチャレンジすべきは、答えの無い問題に解を創り出すこと。それが、新たな価値を創造する『イノベーション』です。そして、企業が主体となる【B】や【C】のイノベーションに関わる社員に必要な能力として、『知識』に加え、『知性』、『知恵』から成る『三知』が求められます。

技術革新で世界のリーダーとなった日本企業の場合、現実には、日々、答えの無い問題に遭遇します。その場合は、『知識』だけでは対応が困難です。なぜなら、答えの無い問題の解は、自ら創り出さねばならないからです。その時必要なのが、『知性』です。さらに、知性から生み出された答え(処方箋)を実践するには、関係者の賢者としての『知恵』が必要となります。世の中で初めてチャレンジする未踏のイノベーションで成功するにも、同じことが言えます。ただ、イノベーションにとって、技術革新は成功への必要条件のひとつにしか過ぎません。そのため、イノベーションを起こし、最終的に成功するためには、技術革新だけにとらわれることなく、多様な考えを持つ人たちが参画し、『三知』を駆使することが必要になるのです。

私は、長年にわたり、どうすればイノベーションを起こし、それを発展させ、新たな市場を創り出すというゴールに到達できるかを研究し実践てきました。これからも、このワクワク、そしてドキドキするイノベーション活動に取り組み、ひとりでも多くの皆さまの成功をご支援して参りたいと願っております。

新村 嘉朗 (工学博士)

サステナビリティ経営研究所代表。技術経営(MOT)アドバイザー。
元米国3M研究所長。前ゴールドラットコンサルティング・TOCコンサルタント。
(一般社団法人)日本経済調査協議会・イノベーターを育てる社会研究会委員。
イノベーション企業として著名な3Mでの日米通算34年間の実務体験を基に、日本企業の発展を可能とするコーポレートイノベーションへのチャレンジを提唱。日本では数少ない実践的イノベーション・アドバイザーとして活動中。